「サインだなんて、おこがましい。」って、今でも思います。
でも、作品には不可欠なもの。
ご購入下さる方にとっては作家の証明になるので、恥ずかしがっている場合じやない。
数年前から作品を譲って欲しいと仰る方がいらしたので、なんとなく会社員時代から稟議書などにしていたサインを少し変形させて使っているのが実情です。
写真作品の場合、サインは表面に記載することもありますが、制作年月日等と併せて裏面にするのが慣例のようです。
ところがこのための鉛筆が何でも良いわけじゃない。「まあ鉛筆なんてHBとか2Bとか、濃さを選べばなんでもありでしょ。」って思っていたら大間違い。
写真印画紙であれインクジェット用紙であれ、テクスチャーにもよってはノリが悪いし、画像の濃度が薄いと画面に透けてしまう。
さて、どうしようか?と思いつつ、一旦課題を棚上げして父の命日に帰省したのですが、なんと実家の電話機のメモ帳の上に良い塩梅の鉛筆があるではないですか。。
子供の頃、ローライの二眼レフを玩具替わりにして育ったような写真一族だから、ダーマトやスタビロ鉛筆が転がっていてもおかしくは無いんだけど、よりによってメモ用の筆記具にしていたとは、恐るべし我が母。。
ご丁寧にコダック社のネガ修正用鉛筆の箱に収まっていたから、
「これは父からの最後のプレゼントなのだ」と勝手に解釈して持ち帰ったのはいう迄もありません。
想像を遥かに超えた数の販売作品に(予想値が低かっただけ)せっせと署名するのでありました。
(注釈)ダーマト:グリースペンシルのこと。語源のダーマトグラフは三菱鉛筆の登録商標らしい。フィルムスリーブやコンタクトシートにメモ書きに使う筆記具。糸を引っ張って、紙を剥いて芯を出すのが特徴。子供の頃これが面白くて、無駄に芯を伸ばして良く怒られた。
サインなんて、自分では気恥ずかしいのかもしれませんね。
でも、もらう方はこの人だからという特別感があるはず。
そこが、広告クリエイティブの匿名性とは違うところです。
コマーシャルの世界に長いことつかっていると、
自分の名前を前面に出すのは、どこかでおこがましいと思っているのかもしれません。
これからは、積極的に名を売るようにしましょう。
自己主張も大切なときもあることに気付きました。
裏方の謙虚さと、発表する勇気の両面を失わぬよう精進します。